自閉症の子どもと旅行するための準備

自閉症児との旅行〜準備・注意すること5つのポイント

コロナ関連の規制が緩和され、我が家も旅行を再開しました。今回は、最近の旅行で役立ったことをご紹介します。

旅行に行って良かったと思う理由

自閉症の息子は7歳になり、診断時と比べて一緒に旅行に行くことがだいぶ楽しくなりました。ここ数年の早期療育の成果により、予定が書かれたソーシャルストーリーや、「あと1週間」「あと2泊」など時間の流れを理解できるようになったからです。何よりも息子本人が、事前に現地の写真などを眺めてワクワクし、旅行の後も楽しかったことを単発的ながらも言葉にしてくれるので、親としては頑張って行って良かったいう気持ちになれます。

一方で、「列に並ぶのが苦手」「やりたくないことには反発」「気持ちを充分に伝えられない」「突然の予定変更を受け入れられない」など、旅行では避けられないハードルが多数あります。また、息子の体も声も大きくなった分、騒ぎ出したり逃げ出したりする恐れは幼少期以上に増し、年齢的に昼寝もしないので休憩なく延々と楽しませる必要があります。

それでも我が家は「行って良かった」と思うことの方が多いです。子どもは旅行先で新しい経験した後は目に見える形で成長につながることがありますが、それは障害のある子でも同じで、うまくいかなかった苦い経験とは裏合わせに、「意外とこれ大丈夫なんだ」「これが好きだなんて知らなかった」といった嬉しい発見もあるからです。

障害児と旅に出るのは不安なことばかり、下調べは細かく、予定調整も分単位で、期待通りにいかなかった時の対処法を考えるのに頭も神経も使います。移動はなるべくスムーズに、現地では「しんどい」より「楽しい」思い出を作りたい・・・そんな願いから、我が家は旅行の事前準備を徹底しています。

「全てが新しい刺激」ということを忘れずに

まずは作業療法士さんに言われた言葉をご紹介します。

旅行先では、子どもにとって全てが新しい刺激。目に映るもの、音、匂い、空気、訪れる全ての場所、食べ物飲み物、手が触れる全てのもの、使う容器や用具、そしてもちろんスケジュールやイベント。障害児の場合、想像できないほど過激なもので、その場にいるだけでも大きな負担である。

その事実にまず、気づいてあげるのが重要かと思います。

スケジュールは緩く、家での習慣を再現

障害児にとって旅行先の全てが大きな刺激であることを踏まえた上で、スケジュールを組み、なるべく大きなことを望まないようにしてあげると、お互いストレスを最小限に抑えられます。

具体的に、我が家は以下のことを心がけています。

イベントは1日1個に絞り、あとは子どもが好きなこと(息子の場合はプール)をさせてあげる。
食事も、新しいものに挑戦するのは1日に1回、あとは家で食べ慣れているものを与える。
・特に食べ物や飲み物は、子どもが確実に食べてくれるものをなるべくたくさん家から持ってきて、困った時にあげられるようにする。
・親戚や友達と合流する場合は、場所や時間など、子どもの負担を最小限に抑えられるように細かく合わせてもらう
移動には充分に時間をとり、予想外の展開に備え、子どもが楽しめるものをたくさん用意しておく。
・あれもこれもと欲張らず、1日に新しい経験(食べたことのないものを食べた!という些細なことでも)を1つできたら親子揃って100点満点、「家以外の環境での気分転換」を楽しむようにする。

ワクワクを共有

以前「スケジュール表で不安解消」の記事に書いたように、自閉症児が言うことを聞いてくれない原因に、「自分の身に何が起こるか・何を期待されているのかが分からない、やれと言われている活動がいつ終わるのかが分からない」といった気持ちがあります。なので我が家では普段から、スケジュールを細かく、写真やイラスト及び文章付きで息子に見せています。

旅行となると、1日1日の不安を解消してあげることがさらに重要になります。また、子どもも具体的な楽しみが想像できるので、ワクワクにつながります。子どもは大人と違ったところに着目し、喜ぶことがあるので、事前に予定を共有することで「この子はこれが楽しみなんだ!」という発見につながるかもしれません。息子の場合、旅行先の地下鉄の駅を復唱するのが好きだということが判明し、同じ場所に再び戻った時には、地下鉄に乗ることを楽しみの一つにしていました。

スケジュールを細かく見せていると言いましたが、旅行先では予想外のことが起きがちで、「行ったら閉まっていた」など様々なハプニングがあり、期待させていた分、息子のストレスにつながることもあります。なので、スケジュールをあえて曖昧にしておくという作戦や、どうしても避けられないことが起きた場合にはお互い落ち込まず、即予定変更できるように、代わりのイベントを考えておくと良いかと思います。

各所で助けを求める

飛行機でイギリスに行った時、助けを求めれば、空港や機内でサポートしてくれることを発見しました。

まずは航空会社に事前に電話し、息子の障害やストレスになるポイントを説明(列に並ぶのが苦手、など)。食事や座席位置の心配なども話していいと思います。必ずしも具体的な解決法は出してくれないかもしれませんが、少なくとも我が家の場合、息子のことが当日のスタッフに伝わっていて、何かと声をかけてくれました。そして、搭乗時は優先してくれました。

機内ではチーフキャビンアテンダントが座席まで来て、「降りるのを優先するのは(物理的に)難しいけれど、空港内での移動が心配ならば、空港のスタッフに連絡してエスコートを頼めますよ」と提案してくれました。でも、そのスタッフを待つこと自体が息子にはしんどいと判断し断わり、入国審査の待ち時間が心配だと伝えると、入国審査の警備員に我々のことを伝えてくれ、その人が優先列に案内してくれました。

どのサービスも、航空会社及び空港によって違うのはもちろん、たまたま対応してくれる人にもよるんだなという印象を受けました。でも、とにかく大事なのは声をあげること、助けを求めること、事前に連絡して聞いてみること。今まで控えめだった我が家が、積極的に息子のことを人に伝えるという新しい経験をした旅行でした。

あともう1点。欧米を中心に世界的に、ひまわり支援マーク(Hidden Disabilities)というバッジの着用が広まっています。目に見えない障がいを持つ人がそのバッジを身につけることで、あらゆる公共施設でサポートしてもらえます。サポート内容は、その施設、状況によって異なりますが、例えば列で優先的に対応してもらえたり、静かな場所に移動させてもらえたり、エスコートしてもらえたりできるかと思います。我が家も、シドニー空港で乗り継ぎの手続きをしている際に、スタッフが息子のバッジに気付き、セキュリティチェックの列の前までエスコートしてくれました。息子始め全員が心身ともに限界に近かったので、本当にありがたかったです。

日本国内では、羽田空港福岡空港新千歳空港などでひまわり支援マークが配布されていて、他、成田国際空港などでも似たようなヘルプストラップをもらえます。利用者が増えるほどサービスも良くなる、そういう意味でも積極的にバッジやストラップをもらい、助けを求めるのがいいかと思います。

人の目を気にしない

普段の生活では、お子さんの障害のことで何かと近所や知り合いの目を気にして、常に気を張り、謝る場面も多いかと思います。でも旅行先で出会う人々は、再び会うことのない人々。「恥ずかしい」「申し訳ない」という気持ちは抑えて、どーんと構えて過ごしましょう!お子さんは慣れていない環境で、いつも以上に騒いだり甘えたりするかもしれません。それでもせっかくの旅行、自分にとっても心身ともに休める時間にすることが、子どものためにもなります。口で言うのは簡単ですが、安全で楽しい旅をお過ごしください!

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